家庭に漂う、言葉にならない緊張感
モラハラのある家庭では、
怒鳴り声がなくても、
どこか空気が張りつめています。
夫の機嫌を先回りして感じ取り、
「今日は大丈夫かな」と無意識に気を配る。
何気ない一言で空気が変わるかもしれないと、
妻も子どもも、心も体も過緊張状態。
もうすぐ帰宅すると思うと、胸が苦しくなる。
安心できない。
それが、モラハラ夫がいる家庭の特徴です。
この緊張感は、
「慣れ」や「我慢」で消えるものではありません。
むしろ、長く続くほど、
家族それぞれが自分を抑えることを
当たり前だと思うようになっていきます。
妻が抱え込みやすい罪悪感と自己否定
家庭の空気が張りつめていると、
妻は無意識のうちに
「機嫌を損ねないように、あたりさわりなく接しておこう」
と自分が我慢していれば、と思ってしまいます。
夫が不機嫌になるのは、
私の言い方のせいかも。
家庭がうまく回らないのは、
私の努力が足りないから。
でも、真面目に会社に行ってくれているし。
そうやって、
相手を立てて、自分にも非があるように
言い聞かせて
なんとか家庭を保とうとします。
それは、あなたが
家庭というものを大事に思う
とても自然な心の働きです。
ただ、その自己否定が続くと、
自分の感情や感覚を後回しにすることが
当たり前になってしまいます。
「つらい」「苦しい」という気持ちさえ、
感じないようにしてしまうのです。
この緊張感は、
「慣れ」や「我慢」で消えるものではありません。
むしろ、長く続くほど、
家族それぞれが自分を抑えることを
当たり前だと思うようになっていきます。
歪んだ父性は、家庭の空気として子どもに伝わる
子どもは、大人が思っている以上に、
家庭の「空気」を敏感に感じ取っています。
父親が何を言ったかよりも、
家の中に流れている緊張感や、
母親が常に気を張っている様子を、
無意識のうちに覚えていくのです。
怒られていなくても、
萎縮する。
叱られていなくても、
安心できない。
それは、
歪んだ父性が
言葉ではなく、
雰囲気や関係性として伝わっているからです。
こうした環境で育つと、
子どもは
「大人の顔色を見るのが当たり前」でも、
「僕(私)はお母さんを助けられない」
という感覚を身につけていきます。
そうやって、子どももまた
自分とはこういう人だと
自分の価値観をつくってしまうのです。
問題は「性格」ではなく「構造」にある
ここまで読んで、
「結局、夫の育ち方の問題だったのね」と
感じた方もいるかもしれません。
実際、そう感じてしまうほど、
育った家庭環境や、
刷り込まれた価値観の影響は大きいものです。
しかし、知っておいて欲しいのです。
育った家庭環境や、
刷り込まれた価値観の影響は確かに大きい。
けれどそれだけで、
今の関係性が続いているわけではありません。
私がカウンセリングで見ているのは、
出来事そのものよりも、
その出来事をどう受け取り、どう関わり続けているかという
深層心理の部分です。
そこに気づかないままでいると、
無意識の思考や反応が、
同じ関係性を何度も再生させてしまうのです。
負のループは「気づいた人」から断ち切れる
歪んだ父性の問題は、
夫を変えれば解決する、という話ではありません。
また、あなたが我慢を重ねることで
良くなるものでもないのです。
これまでの関係は、
あなたが無意識に
「これは言わないほうがいい」
「私が引いたほうがうまくいく」
そう感じて選んできた
関わり方の積み重ねでもあります。
人は、
自分の中にある不安や怖さ、
慣れ親しんだ役割を、
目の前の相手に映し出しながら
関係をつくっていきます。
だからこそ、
その流れに気づいた人から、
違う選択を始めることができるのです。
それが、
同じつらさを繰り返さないための
現実的な入口になります。
目の前の相手は、
自分の心の奥にある
不安や苛立ち、無力さを
映し出していることもあります。
それに気づくことは、
自分を責めることではありません。
同じつらさを繰り返さないための、
新しい選択肢を取り戻すことです。
もし今、
ひとりでは整理しきれない思いがあるなら、
一緒にゆっくり見ていくこともできます。