なぜ私は、会話の輪に入っていけないのか?

話し合いの場でも、
日常の何気ない会話でも、
気づくと私は、
聞き役になっている。

それが当たり前になりすぎて、
「自分にも考えや意見がある」という感覚を、
考えたことすらなかったかもしれません。

自分の意見がないわけではない。
感じていないわけでもない。


ただ、
「今は言わなくていいかな」
「この場では私が黙っていたほうがいいかな」
「会話の波に乗れず、相づちをうつだけたったり」
そうやって、
自分の気持ちを後回しにする選択を、
何度も繰り返してきただけ。

その積み重ねが、
いつの間にか
“人といるときの普通の姿”になっていた、
という人も少なくありません。

気づくと、相手の流れに身を任せている私

では、なぜ私たちは、
こうして自然に
コミュニケーションの主導権を相手に渡すようになったのでしょうか。

それは性格の問題でも、
自己主張が苦手だからでもありません。

多くの場合、
それはもっと昔、
「そうすることが安全だった時期」があったのです。


小さい頃、
親や身近な大人との関係の中で、
「逆らわないほうがいい」
「合わせていたほうが安心」
そんな空気の中で育った人ほど、


自分のペースよりも、
相手の機嫌や流れを優先することを、
無意識に選ぶようになります。

それは弱さではなく、
生きるために身につけた知恵でした。

もしかすると、ずっと「聞き役・調整役」だったのかもしれません

子どもの頃から、
家庭の中で自然と
聞き役調整役のポジションにいた人もいます。

親の機嫌をうかがったり、
空気が悪くならないように間に入ったり、
言い合いになりそうな場面では、
自分が一歩引く。

そうすることで、
家庭のバランスが保たれていたのかもしれません。

兄弟の中でも、
声の大きい人や主張の強い人がいて、
自分は「まとめる側」「譲る側」に回っていた、
そんな記憶がある人もいるでしょう。

そのポジションは、
子どもにとっては
とても大切な役割でした。

場を壊さず、
関係を保ち、
安心できる環境を守るための、
立派な生き方だったのです。


そして大人になった今も、
その感覚は続いているのかもしれません。

職場でも、
友人関係でも、
家族の中でも、
気づけば自分が「潤滑油」になっている。

自分から進んで、
空気を読んで、
場を整える。

それができるからこそ、
人間関係は円滑に回ってきたのだと思います。

でも同時に、
その役割をずっと自分が引き受け続けていると、
心が疲れてしまうこともあります。


そんなときは、
「もうやめなきゃ」と極端に考えなくて大丈夫です。

ただ、
そのポジションを、少しだけ人に譲ってみる
という選択肢を持ってみてください。

・今日は無理にまとめなくていい
・今日は聞き役を休んでもいい
・誰かが沈黙しても、それを埋めなくていい

それだけで、
あなたの心の負担は、少し軽くなります。


調整役でいることが悪いのではありません。
それしか選べない状態が、しんどいのです。

これからは、
「いつもそうしなければならない」ではなく、
「選べる」ようになっていけばいい

その感覚を取り戻していくことが、
人間関係の主導権を
少しずつ自分に戻していくことにつながります。


疲れた時は、そのポジションを
ちょっとだけ人に譲ってみようかな、
と考えてみるのもいいかもしれません。

――そう、それでいいんです
ちょっとだけで変化をつければ。

実践編|慣れ親しんだポジションは、簡単には手放せない

人間関係で、
聞き役や調整役のポジションを
「少し譲ってみよう」と頭では思えても、
実際にやろうとすると、
強い抵抗を感じる人は少なくありません。

それは当然です。

なぜなら、
そのポジションを手放すということは、
代わりに、慣れないポジションを引き受ける可能性が出てくるから。

たとえば――
・リーダーシップを取らなければいけない
・自分の意見を前に出さなければいけない
・場の中心に立たなければいけない
・うまく話して、人を引き込まなければいけない

そんなイメージが浮かぶと、
「やっぱり今のままでいい」と思ってしまうのも無理はありません。


実は、
人はメリットのあるポジションを、無意識に手放しません。

聞き役・調整役でいることには、
確かに、しんどさもあります。
でも同時に、
得てきたものも、きっとあったはずです。

・目立たなくて済む
・責任を背負わなくていい
・強く否定されにくい
・場の空気を壊さずにいられる

子どもの頃、
そうしたメリットがあったからこそ、
その立ち位置を選び続けてきた。

それは、
その時のあなたにとって
とても賢く、安全な選択でした。


だから、
今になってそのポジションを
急に手放せないのは、
意志が弱いからでも、成長していないからでもありません。

ただ、
「これまで自分を守ってくれたやり方」を、
体がちゃんと覚えているだけ。

まずは、
その事実を認めてあげることが大切です。


ここで大事なのは、
いきなり別の役割に移動しようとしないこと

調整役をやめたら、
すぐにリーダーにならなければいけない、
というわけではありません。

実際のところ、
人間関係のポジションは
白か黒か、0か100かではないのです。


疲れないために、小さく変化する

いきなり
「自分の意見をはっきり言う人」
「場を引っ張る人」
にならなくて大丈夫です。

まずは、こんな小さな選択で十分。

・その場をまとめなくても、何も起こらないか見てみる
・沈黙が生まれても、埋めずに待ってみる
・誰かの機嫌を取らずに、その場を終えてみる
・「今日は聞き役に徹しなくていい」と心の中で許可を出す

これは
ポジションを放棄することではありません。

一時的に、今までの価値観を休ませてみるという感覚です。


聞き役や調整役をしてきた人は、
人の感情や場の空気にとても敏感です。

だからこそ、
無理に逆の役割を演じると、
かえって疲れてしまいます。

目指すのは、
「別の人になる」ことではなく、
選べるようになること

今日は聞き役
このグループでは調整役
明日は何もしない。
必要なときだけ、自分の意見を出す。

その選択肢があるだけで、
人間関係の息苦しさは、
少しずつ変わっていきます。


もし今、
「この役割、もう少し軽くできたらいいのに」
そう感じているなら、

それはあなたが
変わらなければいけない、というサインではなく、
楽になる余地があるというサイン。

慣れ親しんだポジションは、
時間をかけて、
少しずつ更新していけばいいのです。