第5話:顔色をうかがう優しさが「心の距離」を越えてしまう理由

人の顔色をうかがってしまう。
相手の気持ちを先回りして考えてしまう。
空気を読んで動いてしまう。

そんな自分に気づくことはありませんか。

気が利く。優しい。思いやりがある。
周りからはそう見えるかもしれません。

でも、心の仕組みの視点から見ると、
少し違う見え方があります。

それは――
傷つきたくない心が、先に動いている状態
であることがあるのです。


■ 察しすぎる人ほど、心が疲れていく理由

相手が何を思っているのか。
怒っていないか。
嫌われていないか。

それを確かめるために、
私たちは無意識に相手の気持ちを読もうとします。

まだ言葉にされていない気持ちを想像し、
まだ起きていない反応を予測し、
まだ向けられていない評価に備える。

これが続くと、
人間関係は常に緊張状態になります。

「気を使う人ほど疲れる」のは、
ここに理由があります。


■ 心の境界線を越えるとはどういうことか

境界線というのは、
「どこからが相手で、どこまでが自分か」
という心の線引きです。

相手の気持ちは、相手のもの。
自分の気持ちは、自分のもの。

本来は分かれているものです。

けれど、顔色をうかがうクセがあると、
相手の気持ちを自分の中に取り込み、
自分の問題のように扱ってしまいます。

これは、
相手の心の領域に入っている状態
とも言えます。


■ たとえば、こんな場面です

たとえば職場で、
上司が少し無表情だったとします。

それを見て、

「私、何か悪いことしたかな」
「嫌われたかもしれない」
「さっきの言い方まずかった?」

と頭の中がいっぱいになる。

でも実際には、
上司はただ疲れていただけかもしれません。

家のことで悩んでいただけかもしれません。

つまり、
相手の事情の領域に先に入り込んで、
自分の責任にしてしまっている
のです。


■ 自分から「被害者の位置」に入ってしまうことがある

たとえば、こんなことはありませんか。

夫の帰りが遅い。
連絡もない。

そのとき頭の中で、

「どうせ私のことなんて大事じゃないんでしょ」
「だから連絡もくれないんだよね」
「話も聞いてくれないし」

そんな声が動き始める。

胸の奥がチクっとして、
もう傷つく準備が始まっている。

でも後で聞くと、
電車が遅れていただけだった。
仕事が押していただけだった。

そんな経験です。


このとき、現実にはまだ何も起きていないのに、
心はすでに“被害者の位置”に入っています。

そして無意識のうちに、
相手を“加害者の位置”に置いてしまう。

これは責めているのではありません。

心が先に守りに入った結果、
そう見えてしまうだけなのです。

■ 「この人はきつい」と感じるときに起きていること

「あの人はズケズケ言う」
「この人は怖い」
「攻撃的だ」

そう感じる相手がいるとき。

もちろん本当にあなたの心のスペースに入り込んでくる人はいます。

でも中には、
こちらが先に構え、
先に防御し、
先に距離を詰めすぎているケースもあります。

心理では、

“されたと感じていることを、先に自分がやっている”

という現象が起きることがあります。

相手の領域に先に入り、
先に警戒し、
先に意味づけをしている。

だから返ってきた言葉が、
強い攻撃のように感じてしまうのです。


心の距離の線引きが弱いと、支配関係に巻き込まれやすい

境界線があいまいな状態が続くと、
相手の言葉や態度に強く影響されるようになります。

特に、支配的なタイプの人との関係では、
この境界線の弱さが深く利用されます。

最初は小さな遠慮や気づかいでも、
だんだん「言えない関係」へと変わっていく。

モラハラ関係でよく起きる流れです。

この仕組みについては、
こちらの記事で詳しく解説しています。

関連記事*モラハラ夫に悩んでいるあなたへ|「私が悪い」と思ってしまう心の仕組み


心の距離をとることは、冷たさではありません

境界線を持つことは、
突き放すことではありません。

拒絶でもありません。

それは、
自分の心の場所を守ること です。

相手を尊重しながら、
自分も尊重する線引きです。

先に入り込みすぎない。
先に背負いすぎない。
先に怖がりすぎない。

それだけで、
人間関係の疲れは驚くほど減っていきます。


こころの距離があいまいな状態が続くと、
相手の言葉や態度に強く影響されるようになります。

特に、支配的な関係の中では、
この「先に自分が悪いと思ってしまう心」が強く働きます。

その仕組みを詳しく書いたのが、こちらの記事です。

関連記事*モラハラ夫に悩んでいるあなたへ|「私が悪い」と思ってしまう心の仕組み

第1話:境界線が引けない人へ|NOが言えない心のしくみと整え方
第2話:断ると嫌われる?NOが言えない人の心の仕組み
第3話:いい人をやめたいのにやめられない人の心のクセ
第4話:距離をおくのは冷たさではない|関係を壊さず距離を取る方法
第5話:顔色をうかがうが優しさが境界線を越える理由(この記事)